今日もまた、紅い涙を流すのよ

ほんの一瞬だった。


最早指先の絆創膏はなくてはならない存在で、
傷を癒すためにも、人にこんなｸﾞﾛﾃｽｸなもの見せないためにも外せない。

むしろ見られたくなさすぎて、包帯でぐるぐるにしてしまいたい。
それもやっぱり目立つから、家で隠れていたい。
そんな引き籠もり無限ループ。


お風呂に入るときだけは薬を落とさなきゃいけないから絆創膏を取るんだけどね、
それ外してお風呂に行こうと立ち上がった瞬間に、やってしまった。

傷口と衣服が擦れてしまった。

最悪なことに、相手はジーンズだ。


声にならない叫びが家中を木霊した。
痛い…、痛い、痛い痛い！！
痛さのあまり目の前が真っ白になる。
どれほどの痛さ？と聞かれたって、あたしの指先には今、皮膚が張ってないわけで。
つまり傷口…中の肉が表面化しててそれがどこかに触れる感覚よ。
痛すぎるでしょ。

一部治りかけてた瘡蓋が無理矢理剥げてしまってさらに傷口が拡がる。
ポタポタと滴る血液が絨毯に模様をつくる。
痛い！！無条件に涙が落ちる。

しかも瘡蓋がね、周りの組織を剥いでいっちゃって、
指先の一部が皮膚も、内部の肉もなくなっちゃった。
陥没してるの。そこだけぽっかり。
大きなクレーターみたいに。

張り詰めた細胞が充血して覗ける。


痛い。
痛いんだよ。
ねえあたしは本当に治るのかなぁ!?

もう1ヶ月以上経ったのに！ちっとも変わらないんだよ!!
指先の傷はいつ治るの！？これももう治らないものなの!!??
痛いんだよ、こんな思いしたくないよ…

1時間動けなくなって、その間も母はあたしを心配そうに見てくれるんだけど、
「私はどうしたらいい!?」って聞かないで。
「どうしようもないじゃない！黙っててよ!!」って余裕のないことしか言えない。

傷に走る血液が増加して鼓動がどんどん早くなっていくのがわかる。
動悸が激しい。ﾃﾝｼｮﾝが異常にあがっていく。

冷静になれないんだよ。
冷静に人をかまう余裕なんかないんだよ。
母に迷惑かけてるってわかってる。
けどこの痛みに耐えるのが必死で、優しくなんてできない。
そんな自分が、嫌なんだ。
そんな顔をさせたいわけじゃないのに。

もう無限ループ。
負の連鎖。
抜け出したいのに抜け出せない。


ようやく痛みが抑えられて、動悸もﾃﾝｼｮﾝも落ち着いてきた。
右手の指先の痺れだけがまだ残ってる。


あたしは一生このままなのかな。

自分にしかわからない痛みを人にぶつけてしまうのかな。
それで誰かを悲しませてしまうのかな。
そんなことしたくないよ。

けどね、
誰かにこの痛みを伝えないと、言葉にしないと、すべて自分の中だけに降り積もっちゃって苦しいんだよ。共有できるはずもないのに、わかってほしくてたまらないんだよ。
なんて子供じみた言い訳なんだろう。

傷付けたくないから独りでいたい、
けどこの苦しみもわかってほしい。

馬鹿馬鹿しくなってきた。


ああ、お願いだからある日夢から覚めて、
『今までの事はすべて夢でした』
なんてオチにならないかな。

そうだったらこの痛みも苦しみも、

今だけだよとすべて受け止めるのに。